境界線の虹鱒

研究ノート、告知、その他

『苦痛か性的快感かの表情判断における性差』(梗概和訳と雑感)

(原題 "Sex Differences in the Assessment of Pain Versus Sexual Pleasure Facial Expressions")

梗概(和訳)
 まったく異なる情動でありながら、苦痛を感じている人の表情は、強い性的快感を感じている人の表情と驚くほど似ている。私たちは、男女それぞれの顔写真が苦痛を感じている表情なのか性的快感を感じている表情なのかを区別することに、性差が存在するかどうかを調査した。インターネットから取得した、苦痛と性的快感のいずれかを感じている人の写真を、スライドショー形式で91人の回答者に示し、その写真に写る人が苦痛と性的快感のどちらを感じているのか識別させた。全体として、被験者は性的快感と比べて苦痛の表情をより正確に識別することができた。被験者はまた、女性が苦痛を表現している写真を識別するということになると最も高い正答率を示したが、女性が性的快感を表現しているのを識別するのは最も正答率が低く、この現象は女性回答者に顕著だった。そのうえ、回答者は女性の写真よりも男性の写真について、回答するときに長く時間をかけた。これらの調査結果は、こうした表情の認識における性差がどれほど適応的であるか、という面において議論されている。

pdfはこちら↓
http://psycnet.apa.org/journals/ebs/2/4/289.pdf

【簡単な整理と雑感】
  要するに、回答者たちに顔写真を見せて「これは性的快感を感じている表情ですか? それとも苦痛を感じている表情ですか?」を答えさせる実験をしたわけである。以下2つのグラフがその正答率である。

  全体的な結果を見るなら、一つ目のグラフがわかりやすい。七割以上の人が性的快感の表情を正しく識別できている。そして特徴的なのが、女性が苦痛を感じている表情は特に正答率が高くなっているという点である。

f:id:mtwrmtwr:20170121182759j:plain    回答者の性別を考慮して、より細かく整理したものが二つ目のグラフである。男性の表情を識別する課題については、男女どちらの回答者も大差ない正答率になっている。逆に女性の表情を識別する問題については、回答者の性別によって差が出ている。女性回答者は女性の苦痛を正しく識別しやすいが、女性の性的快感の正答率は低い、という結果である。

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 これらの結果について、「ネガティブな感情の方がポジティブな感情よりも検知しやすい」といった過去の研究との整合性や、進化論的な適応として解釈できるかどうか、といった考察が行われている。詳細は原文を参照いただきたい。ちなみに、実際の調査で用いられた顔写真は次のようなものである。

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 ……なかなか反応に困る画像たちである。表情以外の情報(わずかに映り込んだ身体や背景、あるいは顔の向きなど)の影響もある気がするので、本当に表情だけで識別したと言えるのか、個人的には疑問が残る。もっとも、表情だけで苦痛と快感を識別する機会なんて日常生活ではまずないだろうから、べつにいいのかもしれないが。

※なおブログ筆者はまったくの心理学素人かつ英語素人です。誤訳や解釈間違い等については一切責任を負いませんのでご了承ください(もし誤訳を発見した方は、コメント欄等に報告いただけると助かります)。また、この論文は2008年初出のものなので、その後の研究などをご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント等いただけると私が喜びます。